京都エッセイ
 過去と未来の町<西陣> 
 
中川繁夫

  
        
千本釈迦堂 2021.8.10

映画館のはなし
2009.7.4

1946年、昭和21年生まれのぼくが少年の頃、千本中立売界隈は、いくつもの映画館があって、それはそれは盛況でした。テレビが家庭に普及する前で、昭和30年前後、1955年ごろでしょうか。

西陣京極って露地があって(現在もあります)、千本から入って突き当りが東映、手前左に西陣キネマの洋画館。千本通り、現在、無印の店舗になっている歩道に、映画館発祥の地との案内がありますが、ここが日活、そうして少し南で、いまローソンのあるところが、長久座って書くんでしょうか大映。松竹は千本中立売下がったの南東。

やっぱり、東映の映画館へよく連れていってもらいました。中村銀之助、大川橋三、片岡千恵蔵、市川歌右衛門、美空ひばり、丘さとみ、等など、その時代の俳優のことを思い出します。

マキノ省三が住んでた長屋ってのが、無印の向いの和菓子屋の横の路地にあった、ってのを教えてもらったのは、去年の冬のことでした。

映画館、千本界隈の現在は、エロ映画専門の千本日活があるのみです。


織屋のはなし
2008.1.31

土屋町通りという名が、気になってきて昨日、土屋町を意識しながら徘徊した。通りは千本通りの東、北は一条から南への通りです。千本中立売を起点に、東へ歩み、北を見れば西陣京極の入り口、南を見ればちょっとした下り坂道、狭い通りです。

織屋の町、賃機(チンバタ)の町、中村さんはそのようにいい、かって西陣織の着尺(着物地)を請負家内で織っていた界隈だというのです。ぼくが住んでる柏野地区は、比較的新しい町で、1920年代ごろに今の町並みになってきたようで、土屋町界隈は、そのはるか昔、ひょっとしたら応仁の乱の後、西陣織が盛んになるころからの町なのかもしれない(考証してないのでなんともいえませんが)。

一条通りを起点として、北側に浄福寺があります。そうして西陣京極の南北筋を中立売に出て、そこから南へ仁和寺街道界隈、そのあたりがメインの場所なのか。ボーリング場の後があり、かって1960年代だと思うけど、この一帯が栄えた、若い人がたくさんいた、そう思えるいまや静寂な町すがたです。

かって遊郭があった場所、五番町は、千本通りから仁和寺街道を西に入り、六軒町までの南一帯。七本松より東で、一番町から七番町まであり、そのなかで五番町というのが固有名詞になっている。つまり遊郭、女郎屋のある場所。このことが具体的なイメージで、ぼくのなかに浮上してきたのは、最近です。

2008.1.28
ぼくは<西陣>のことを「過去の町」だと思っているんです。でも、そう思うと、空しいし、悲しいし、やるせないので、ここでは「未来の町」というタイトルです。もう西陣なんて呼び名も消えてしまうんじゃないか。でも、未来はあるぜ!って、ね。

西陣警察署はなくなり上京警察署、西陣郵便局は健在、和装着物の生産地としての西陣、西陣織、細々健在。そんなこんなで、西陣という由来は応仁の乱に端を発しているけれど、未来永劫に栄えるはずもなく、歴史に名をとどめる、いまなら安土って名称のように、<西陣>という地名も、その類なのかも知れません。

未来があるかといえば、これは単に時間的に未来ではなくて、明るい未来、街路の照明が明るいということではなくて、住んで生活していることに希望が持てる、誇りに思える、そんな心にさせてくれるかどうか、その未来です。

ぼくもその類ですが、人は、この世の出来事を、どちらかといえば暗く見ようとする傾向があるんだと思います。もちろん人間としての権利、人が生きる権利とかの視点で、人が幸せかどうか、幸せとは、生きてることに満足してるかどうか。

そうゆうことでいえば<西陣>という町には、悲劇があります。悲劇ばっかりなのかも知れません。なんてったって、いま、西陣織産業は、華やかではないし、夢も希望もないようなので、これまでの記憶が悲劇的に見えてしまうのだと思います。西陣織に従事した女工さん、遊郭で遊女として従事した女性さん。

西陣という区域から、北野天満宮を中心とした門前町、そうして京都の着物産業を担ってきた生産地、そうゆう原点に、われらの心の原点があるのではないかなとの思いで、ここに、こんな文章と写真を載せているんです。

    
       千本釈迦堂 2011.8.16



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最新更新日 2021.8.26